
歩くときに、右のお尻がだるいな

歩くときに腰ではなく、お尻がだるいのは珍しい気が、、

腰だけじゃなくて、お尻に症状が出る方も少なくないよ。
しっかり評価していこうか。
「お尻がだるくて歩けない…」
そんな訴えは、臨床現場でもたびたび耳にします。
殿部のだるさや痛みによって、外出や活動が制限され、生活の質が大きく低下してしまうこともあります。
本記事では、歩行時の殿部痛が起こる原因を整理し、理学療法士の視点で評価とアプローチのポイントを解説します。
タケシさんの既往歴と主訴
・左脳梗塞 右半身不全麻痺 (Brunnstrome stage上肢Ⅵ 手指Ⅵ 下肢Ⅵ)
・脊柱管狭窄症の診断はなし
・30m先のゴミ捨て場まで行きたいが、お尻がだるく何度も休憩が必要

🔍️理学療法評価
立位姿勢を確認する
立位(特徴)
・頭部前方偏位、上位頚椎伸展、下位頚椎屈曲
・胸・腰椎後弯、骨盤後傾、骨盤後方偏位
・両股関節屈曲、膝関節伸展、足関節底屈位
つま先よりも踵に荷重が乗る感覚との事。
意図的につま先に荷重を乗せると、右は乗っている感覚が鈍いとの発言あり。

歩行を確認する
歩行中は体幹前傾が強まり、下を見る傾向あり。

歩幅が狭くなりすり足、突進歩行を確認。立ち止まるように静止すると止まる事ができる。
歩行距離15m前から右殿部にじわじわとだるさが強くなるが、腰部には症状が生じない。
👉️動作から以下の仮説が考えられるため、精査していく。
・後方重心であり、足部に重心を移しにくい
・体幹が前傾しており、体幹を起こすことが難しい
・下肢の感覚に問題がある
・体幹・股関節の伸展の可動域に問題がある
感覚を調べる
セラピストの指先で右踵・右母趾球・右小趾球を触っていくと、触られている感覚が分かりにくいとのこと。
そのため感覚検査を実施。
左側は問題なかったため、右側のみ記載。
5回法で実施※5回触り正答数を以下の基準で評価
5/5正常 4/5軽度鈍麻 3/5中等度鈍麻 2~0/5 重度鈍麻
触覚
| 右踵 | 4/5(軽度鈍麻) |
| 右母趾球 | 2/5(重度鈍麻) |
| 右小趾球 | 2/5(重度鈍麻) |
圧覚
| 右踵 | 4/5(軽度鈍麻) |
| 右母趾球 | 2/5(重度鈍麻) |
| 右小趾球 | 1/5(重度鈍麻) |
右踵、右母趾球、右小趾球の触覚・圧覚共に鈍麻を確認。
筋力を調べる
筋力検査(Manual Muscle Testing)
| 運動方向 | 右 | 左 | |
| 股関節 | 屈曲 | 4 | 4 |
| 伸展 | 3 | 4 | |
| 外転 | 3 | 4 | |
| 内転 | 3 | 4 | |
| 膝関節 | 屈曲 | 3 | 4 |
| 伸展 | 4 | 4 | |
| 足関節 | 背屈 | 3 | 4 |
| 底屈 | 4 | 4 |
可動域を調べる
| 運動方向 | 右 | 左 | |
| 股関節 | 屈曲 | 110 | 125 |
| 伸展 | 0 | 5 | |
| 膝関節 | 屈曲 | 135 | 145 |
| 伸展 | 0 | 0 | |
| 足関節 | 背屈 | 10 | 10 |
| 底屈 | 45 | 45 |
| 運動方向 | |||
| 体幹 | 屈曲 | 40 | / |
| 伸展 | -5 | / |
🧩考察
今回歩行を行う際に右殿部にだるさが生じており、評価を実施した。
その結果、仮説としてタケシさんは体幹前傾、両股関節を屈曲位の状態で歩行を行っている。
そのため体幹前傾に倒れてしまうモーメントを股関節伸展筋群によって相殺させていると推察する。
小栢らは股関節伸展位では大殿筋下部がもっとも強い伸展トルクを有するが,屈曲するにつれて内側ハムストリングス,大腿二頭筋が大殿筋下部線維の伸展トルクより強くなった
小栢進也.関節角度の違いによる股関節周囲筋の発揮の変化-数学的モデルを用いた解析-.理学療法学.2011.38巻.2号
上記の知見から体幹前傾、両股関節が屈曲位のため、大殿筋の活動よりもハムストリングスの活動が増加すると考えられる。
また歩行は前方に進んでいく動作のため、前方への推進力により、体幹前傾が強まる。

そのため姿勢を保つ為により伸展モーメントが必要になる。
結果、歩行距離が伸びるにつれて、徐々にハムストリングスへの負担が増加し、右殿部下部にだるさが生じていると仮説を立てた。

上記の仮説に至っている問題点を述べる。
①体幹伸展可動域の制限
体幹の伸展可動域に制限が生じている。この問題により体幹は前傾位をとらざるを得ず、ハムストリングスをはじめとする股関節周囲に負担を増加させていると考えられる。
②足底感覚の低下
右踵、右母趾球、右小趾球に感覚の低下が確認された。
この影響により、特に前足部は荷重を認識できず立位、歩行を行っていると推察。
そのため後方に重心が偏位しやすく、股関節が屈曲位をとりやすい。
結果、体幹が前傾しやすくなると考えられる。
上記のポイントから感覚の低下に対してのケアが必要であると考えられる。
③大殿筋筋力低下
体幹前傾、両股関節が屈曲位をとることによって大殿筋の活動が抑制されていると考えられる。
実際に筋力低下も生じており、この影響によりハムストリングスに負担が増加しやすい。
ケアアプローチ
体幹伸展可動域の制限
胸腰椎後弯が常態化し、前弯する機会が減少している。
そのため体幹伸展可動域の制限が生じており、体幹前傾を修正できないと考えられる。
結果、股関節伸展筋による代償が求められている。
また胸腰椎後弯は後方に重心偏位しやすく、股関節屈曲が強まる場合がある。

上記のことから胸腰椎の前弯ができるだけの柔軟性、筋力を獲得し、後方重心の改善を図りながら、ハムストリングスの負担を軽減していく。


どちらも疼痛が生じない範囲で行っていく。
足底感覚の低下
右の前足部の荷重感覚が乏しくなっている。 前足部の荷重が感じられないと、踵に荷重が乗りやすく、後方重心となり股関節屈曲位に誘導されやすくなる。
そこで右足趾、右母趾球、右小趾球をセラピストの手指、タオルで擦っていきます。
※皮膚が脆弱な方にこのアプローチを行う場合は、タオルは使用せずセラピストの指先で、力加減に十分注意して行う。

タケシさんは擦ると、触れている感覚は分かるとのこと。
しかし擦るのを止めると、触られていた感覚が残らず分からなくなるとの発言あり。
擦られていた感覚が擦るのをやめた後でも、残っていることを目標に、擦る・やめる・聞くを繰り返し行う。
この訓練で右足趾、右母趾球、右小趾球に集中してもらう機会を作り、意識付けを行っていく。
訓練を繰り返すと擦られた感覚が残り、認知できるようになる。
そこで座位で踵を接地し、体幹前傾していく。
この時に擦っていた部分に、体重をかけるように提案する。

体重がかかるのを認知できたら、意図的に擦った部分で踵が浮かないようにしながら、床を踏んでいく。
その後立位へと移行し、前足部に体重を乗せていく。

右大殿筋筋力低下
股関節屈曲位になる問題点をケアした後は、ハムストリングスの負担を軽減するために大殿筋を活動させていく。
左側臥位で右手で床を押してつつ、左股関節を屈曲する。
右手で床を押すことで、腹部を働かせて腹圧を高める。
さらに左股関節を屈曲することで、右股関節伸展時にモーメントを相反させ骨盤を安定させていく。
この姿勢で右大殿筋の活動を高める。

建内らは股関節伸展位ではすべての外旋筋が外旋筋力に寄与できるが,股関節屈曲位では外旋筋力に寄与できる筋が大殿筋下部線維,内閉鎖筋,外閉鎖筋,大腿方形筋に限られてしまう
建内宏重.股関節〜強調と分散から捉える.ヒューマン・プレス.2020,55.
上記の知見から股関節の屈曲角度を考慮することで、選択的に股関節外旋筋のトレーニングを行う。

上記のアプローチ後、歩行中の殿部のだるさは改善し、無理なくごみ捨てができるようになる。
さらにタケシさんは杖に対して抵抗がなかったため、屋外では杖を用いてもらうことで体幹前傾を抑制し、股関節屈曲位になりにくいように配慮。
結果外出の頻度も増え、一人で買い物や散歩を実施できるようになる。

タケシさんも外出が増えてから、とっても明るくなったよ。
やっぱりしたいことができるって違うね!
まとめ

まとめ
今回は、歩行時に右殿部のだるさを訴える患者さんへの評価とアプローチを解説しました。
評価から明らかになった主な問題点は以下の3点です。
① 足底感覚の低下 右踵・母趾球・小趾球の触覚・圧覚が低下しており、前足部への荷重認知が乏しくなっていました。その結果、踵への過剰な荷重と後方重心が生じ、股関節屈曲位が強まる一因となっていました。
② 大殿筋の筋力低下 股関節屈曲位での歩行が続くことで大殿筋の活動が抑制され、代わりにハムストリングスへの負担が増加。これが殿部下部のだるさの主因と考えられました。
③ 体幹伸展可動域の制限 胸腰椎後弯の常態化により体幹を起こせず、股関節伸展筋への代償がさらに強まっていました。
アプローチとしては、胸腰椎の前弯を出しつつ、足底への感覚入力で前足部の荷重認知を高めたうえで、大殿筋の選択的トレーニングを実施。加えて屋外では杖を導入し、体幹前傾を抑制しました。
殿部のだるさは疾患だけでなく、姿勢の崩れから生じることもあります。立位・歩行姿勢をしっかり観察し、股関節周囲の筋活動と感覚の両面から評価することが改善への鍵となります。
🔗 関連記事はこちらもおすすめです
お尻のだるさや痛みは、股関節・姿勢・筋力のバランスの崩れからくることがあります。以下の記事もあわせてご覧いただくと理解が深まります。
✅ 歩くと股関節が痛い原因は?理学療法士が見るべきポイントを解説【CASE24】
✅ 段差を昇ると膝が痛いのはなぜ?理学療法士が原因と改善方法を解説【CASE8】
✅ 足を伸ばすとお尻が痛いのはなぜ?原因と改善方法を理学療法士が解説【CASE29】
最後に(免責)
本記事は一般的な情報提供を目的としています。
目の前の患者さんへの適応可否は、各自の評価と専門職としての判断に基づいて実施してください。
患者さん一人ひとりで疾患・既往・身体特性が異なるため、記載内容がすべての方に同様の効果をもたらすとは限りません。
本記事を参考にして生じた損害等について、筆者は一切の責任を負いかねます。
あらかじめご了承ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
以上、理学療法士 ユウセイでした。

noteでは、臨床での学びや日常で感じたことも発信しています。ぜひ気軽にご覧ください。

Instagramで最新記事のお知らせをしています!是非フォローをよろしくお願いします。


コメント