歩行器で後ろに転びそうになった!現場のヒヤリ体験から学ぶ注意点と対応策【CASE34】

医療者向け
10年目ユウセイ
10年目ユウセイ

今日はヒヤッとした場面があったから話そうと思うよ

「歩行器を使っていた患者さんが、後ろに倒れそうになった…」


理学療法士として介助や見守りをしていると、そんなヒヤッとする場面に出くわすことがあります。


今回は、私自身が体験した**“歩行器使用中の後方転倒しかけ”のケース**をもとに、その原因と、注意すべきポイントについて解説します。


現場で同じような状況に出会ったとき、どう対応すべきかを考えるきっかけになれば幸いです。

既往歴と患者さんの情報

・左視床出血(Brunnstrome stage右上肢Ⅳ 右手指Ⅴ 右下肢Ⅳ)
平行棒から歩行器歩行の練習を開始。今回で3回目だが、筆者は代行で初めての訓練。
担当より1・2回目も大きな問題なく、後方から見守り程度で実施可能との情報あり

転倒しかけた状況を確認する

立ち上がり

ベッドからピックアップ歩行器を把持し立ち上がりを試みる。
しかし体幹の前傾は乏しく、離殿の瞬間に歩行器ごと後方に倒れる。

そのため立ち上がりが行いにくいとの事。

対応としてL字柵を把持し立ち上がった後、歩行器を把持する事とした。
L字柵を左上肢で引き付けるようにすれば、後方に倒れることなく立ち上がりを行えた。

その後歩行器を手渡し、歩行器を用いて立位保持を行う。
立位では歩行器が後方に傾く事はなく、恐怖感もないとのこと。

立位(特徴)
・頭部は前方偏位、上位頚椎伸展、下位頚椎屈曲
・胸・腰椎後弯、骨盤後傾
・両股関節、膝関節屈曲、足関節背屈

歩行

歩行を行う際にまずピックアップ歩行器を前に出し、右下肢、左下肢と順序よく歩行していく。

しかしピックアップ歩行器、右下肢と出し、左下肢を振り出す場面であったが、左下肢を前に出さず、ピックアップを前に出そうとする。

その瞬間左膝が膝折れし、崩れ落ちそうになったため筆者が身体を支えたという事例。

理学療法評価

今回の原因として、まず立ち上がりの際に、歩行器が後方に倒れそうになったことに着目したい。


👉️動作から以下の仮説が考えられるため、精査していく。
・後方重心であり、足部に重心を移しにくい
・離殿を行う際に必要な下肢筋力が十分ではない
・下肢の感覚に問題がある
・体幹の前傾が十分でないことから可動域に問題がある

筋力を調べる

筋力検査(Manual Muscle Testing)

運動方向
股関節屈曲44
伸展33
外転34
内転44
膝関節屈曲33
伸展44
足関節背屈34
底屈33

可動域を調べる

運動方向
股関節屈曲110125
伸展-55
膝関節屈曲130145
伸展-50
足関節背屈510
底屈4540
運動方向
体幹屈曲40
伸展

感覚を調べる

感覚検査

5回法で実施※5回触り正答数を以下の基準で評価
5/5正常 4/5軽度鈍麻 3/5中等度鈍麻 2~0/5 重度鈍麻

以下正・軽・中・重で表記(右/左)

触覚検査

大腿前面正/正大腿後面正/正
下腿前面正/正下腿後面正/正
足背軽/軽足底(母趾球)中/中
足底(小趾球)中/中足底(踵)軽/軽

位置覚検査

股関節中/軽
膝関節中/軽
足関節中/中

立位姿勢は後方に重心が偏っているように評価する。

👉膝が折れた場面

歩行中に殿部が後方に引けており、後方重心のままピックアップ歩行器を前に出そうとしている。

ピックアップ歩行器を前に出すためには一度持ち上げる必要がある。
しかし物を持ち上げる際に重心は後方に移動しやすいと考えられる。

考察・ケアアプローチ

両下肢に関しては重力に抗する筋力を持ち得ていたが、抵抗に抗する事はできない部位も確認できた。
特に股関節伸展筋の筋力低下は離殿に関わるため注目したい。
また両下肢ともに膝関節屈曲、足関節底屈筋に筋力低下が生じていたことは膝関節の安定性に影響すると考えられる。

通常の歩行の立脚期において、下腿三頭筋は脛骨の前進を制御し、膝の伸展に寄与する。足底屈筋の筋力低下は過度の背屈を引き起こし、結果として膝はこの寄与を失う。
Brunner R, Frigo CA. Control of tibial advancement by the plantar flexors during the stance phase of gait depends on knee flexion with respect to the ground reaction force. Bioengineering. 2024;11(1):41.

また感覚検査において両足底の触覚障害と両膝、足関節の位置覚障害が確認された。
この事により両下肢ともに、位置関係を把握することが困難になっていたと考えられる。

また両母趾球、小趾球の触覚障害は、前足部への荷重を抑制し、後方に重心が偏る一因として考えられる。
そのため立ち上がりでの離殿の失敗、立位姿勢での後方重心につながっていると考えられる。

その状態で歩行器を持ち上げようとしたため、更に後方重心が強まり、膝関節への屈曲方向のモーメントが強まったため、膝折れが生じたと考えられる。

そのため両母趾球、小趾球への感覚の入力を行い、前足部にも重心を移行していくことで、膝関節への屈曲モーメントを軽減させることが重要であると考えた。

ケア:母趾球、小趾球への感覚の入力

感覚が入った後にピックアップ歩行器を用いながら、おへそを歩行器に近づけるように提案。
その動作の際につま先に荷重がかかることを認知していく。

つま先への荷重感覚を養った後は、
数字を数えながら、1.ピックアップ歩行器を前に出す。2.右足を前に出す。3.左足を揃える。
このパターンを習得していく。

更に左下肢の位置覚に問題が生じていたため、歩行前に自身の目で確認しながらステップを出す。
その後視線を外しながらステップを出す。
👉️視線を外して、揃えられるようになったとセラピストが確認してから歩行訓練を行う。


上記の訓練により意識を改めた際には膝折れが生じなくなる。
今後も足部への感覚入力を継続しつつ、歩行への意識を向けることで転倒を防いでいきたいと考える。

まとめ

今回は、脳卒中後の患者さんが歩行器使用中に後方転倒しかけたケースをもとに、その原因と対応について解説しました。

評価から明らかになった主な問題点は以下の通りです。

① 後方重心 足底(母趾球・小趾球)の触覚障害により前足部への荷重が抑制され、慢性的な後方重心につながっていました。ピックアップ歩行器を持ち上げる動作はさらに重心を後方へ移しやすく、転倒リスクを高める要因となりました。

② 下肢筋力の低下 特に左股関節伸展筋の筋力低下が離殿の不安定さに関与しており、膝関節・足関節周囲筋の低下も膝折れの一因となっていました。

③ 位置覚障害 左膝・足関節の位置覚障害により、左下肢の空間的な位置把握が困難となり、歩行パターンの乱れや膝折れを招いていたと考えられます。

アプローチとしては、母趾球・小趾球への感覚入力を行ったうえで、歩行器に向けておへそを近づける動作で前足部への荷重認知を促しました。また、歩行パターンを数字で整理し、目視によるステップ確認視線を外してのステップ確認を加えることで膝折れの改善が得られました。

歩行器を使用する患者さんを担当する際は、立ち上がり時に歩行器で安全に立てるか後方重心になっていないかを事前に確認することが、転倒を未然に防ぐ重要なポイントとなります。

※場合によっては歩行器の後、麻痺側を先に出す方が不安がない方もおられます。

🩺 医療者・学生の方へ

「ケースノート・初期評価レポートって、どう書けばいいんだろう…」 そう思いながら、実習初日を迎えようとしていませんか?

書き方を誰かに教わった記憶がない。
実習前、ケースノートの書き方に戸惑う方は少なくありません。

そんなあなたに届けたくて、このPDFを作りました。
このPDFに僕が実習前に知っておきたかったこと、全部まとめました。

むずかしい知識はいりません。 「あ、こういうことか」と読み進めながら理解できるように書いています。

実習前の今だからこそ、読んでおいてほしい一冊です。

🔗 関連記事はこちらもおすすめです

立ち上がるときに踏ん張れないのはなぜ?理学療法士が原因と改善方法を解説【CASE26】
立ち上がり時の不安定さは、歩行開始時のふらつきや転倒リスクにもつながります。足底感覚や重心位置に着目した評価とアプローチが学べる記事です。

歩くと右足が出しにくいのはなぜ?理学療法士が原因と改善方法を解説【CASE5】
下肢の運びにくさや体重移動の問題は、歩行器使用時のバランス不良にも影響します。歩行の安定性を高めるための評価視点が整理されています。

歩くときに下を向いてしまうのはなぜ?|原因と改善のヒントを紹介
視線や姿勢の崩れは、バランス低下や転倒リスクの一因になります。一般の方向けに、安全に歩くためのポイントをやさしく解説した記事です。

最後に(免責)

本記事は一般的な情報提供を目的としています。

目の前の患者さんへの適応可否は、各自の評価と専門職としての判断に基づいて実施してください。

患者さん一人ひとりで疾患・既往・身体特性が異なるため、記載内容がすべての方に同様の効果をもたらすとは限りません。

本記事を参考にして生じた損害等について、筆者は一切の責任を負いかねます。

あらかじめご了承ください。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

以上、理学療法士 ユウセイでした。

noteでは、臨床での学びや日常で感じたことも発信しています。ぜひ気軽にご覧ください。

👉 noteで記事を見る

Instagramで最新記事のお知らせをしています!是非フォローをよろしくお願いします。

📸 Instagramをフォローする

コメント