こんにちは、ユウセイです。
理学療法士として病院・施設・在宅と関わりを持ち、経験も10年以上になりました。
今はその経験を活かして理学療法士としての治療と考え方を日々発信しています!
朝に顔を洗おうとすると右の腰がピリッとするんだ。
洗顔の際に腰痛が出ているんですね。
前に屈んだ時の腰痛を訴えるのははかなり多いでな。
生活を営む中で洗顔動作は非常に重要な動作であり、頻度の高い動作になります。
その際に問題になりやすいのが、体幹を前傾した際の腰痛です。
この腰痛があるために朝気分が落ち込む、人と会うのが億劫になるなど以前行えていた交流や趣味といった機会が失われることは珍しくありません。
そのため洗顔動作の際の腰部にかかる負担を軽減し疼痛を改善していければ生活の質を改善していくことが出来ます。
今回は洗顔動作時腰痛に対しての治療を詳しく解説します。
座位姿勢と動作を確認しよう
タケシさんの主訴
洗顔をしようと屈んだ際に腰の右側に痛みがある
タケシさん姿勢
姿勢を見ると猫背になってますね。
これだと腰部に負担が掛かりそう。
腰痛があるのは立位で体幹を前傾した際ですが、疼痛が生じる動作の前段階の姿勢で原因が潜んでいる場合があります。
そのため、タケシさんの場合では座位姿勢の確認をします。
確認すると、胸椎腰椎が後弯・骨盤が後傾しています。
この姿勢では腰椎椎間板に負担がかかりやすく、体幹を前傾したときに腰部を支える伸展筋は起始と停止が離れた状態で支えることになり、負担がかかります。
タケシさん洗顔動作
実際に動作を確認してみると、この座位の特徴が現れた動きとなっています。
このことからアライメントの特徴によって、腰部に負担がかかっていると考えられます。
続いて腰部に隣接している部位に可動性の低下、筋力の低下が生じていることがあるため確認していきます。
普段から猫背の姿勢で生活することが多い
動作中に股関節よりも胸椎・腰椎の屈曲を強めて行なっている
腰部以外の関節に注目する
腰部に隣接している部位の可動性・筋力が低下し腰部が代償して疼痛が生じている場合があります。
タケシさんの場合では胸椎伸展・回旋制限・胸郭には拡張制限が生じていました。
制限の種類としては筋性のエンドフィールで大胸筋上部・中部線維、小胸筋の制限が生じ胸椎・胸郭の可動域制限が生じていました。
また日常の座位姿勢から両側の大臀筋は働きにくくなっていると考えられます。¹⁾
そのため別途検査で両側ともに大殿筋の筋力低下が確認され、右大殿筋のほうが左と比較して筋力低下していることが確認されました。
胸椎の伸展・回旋制限、胸郭の拡張制限あり
日常の座位姿勢による大殿筋の筋力低下
参考文献:Dr.Kelly Starrett.「ケリー・スターレット式座りすぎケア完全マニュアル.初版第1刷,溝渕知秀(訳),医道の日本社,2019,40-50.
胸椎の伸展・回旋制限、胸郭の拡張制限
洗顔のために体幹を前傾する時に胸郭が拡張できず、胸椎が伸展方向に誘導できないことで胸腰椎は後弯姿勢になりやすくなります。
体幹を前傾する際には脊柱起立筋は遠心性収縮での活動を行うため、胸腰椎位の後弯により腰背部の伸展筋に過度に負担がかかり緊張が亢進してしまうと考えられます。
座位姿勢による大殿筋の筋力低下
大殿筋の筋力低下が生じているため、体幹前傾姿勢を支持できず腰部に負担をかけていると考えられます。
青木・杉浦らは前屈運動の中心は股関節であり、股関節伸筋群である大殿筋機能が低下していると腸肋筋等の脊柱起立筋等の活動が高まる。このことは筋・筋膜性腰痛の一因になると述べています。²⁾
引用文献
2)青木保親・杉浦史郎.フルカラーでやさしくわかる!腰痛の理学療法.第1版,日本医事新報社,2022,84-105.
このことから大殿筋の弱化により腸肋筋・脊柱起立筋への負担が増加し腰痛が生じていると仮説を立てました。
胸椎・胸郭の可動制限によって胸椎・腰椎の後弯姿勢が強まり、腰痛の原因となっている
大殿筋の弱化により腰背部の負担が増加し腰痛の原因となっている
問題点に対して治療する(臥位・座位)
胸郭の可動性を改善する
伸張したところで呼吸を使って可動域の改善を図るのも効果がある場合が多いで。
大胸筋上部・中部線維、小胸筋と順に軽く指圧しながら肩甲骨の内側縁を軽く押し込みます。
その際に肩甲骨を後傾方向に誘導することも併行して行います。
伸張と弛緩を繰り返し、動作を理解してもらえたら自動介助運動へと促していきます。
この動作により胸椎の伸展・回旋、胸郭の拡張制限を改善していきます。
胸椎・胸郭の柔軟性を改善していく過程で肩甲骨のアライメントを修正しつつ、胸椎・胸郭の可動性を促せたことで胸腰部の緊張が緩和していきました。
特に胸郭には腸肋筋、広背筋が付着しているため胸郭の拡張が促せたことで腰背部の緊張が緩和したと考えられます。
次いで大殿筋の収縮を促し、腰部の負担を軽減します。
側臥位で以下の図のように動かしてもらいました。
この結果図のように大きく上がりはしませんでしたが、繰り返すうちに大殿筋が収縮してもらえるのを感じてもらえるようになってきました。
肩甲骨のアライメントを整えながら胸椎・胸郭の可動性を改善する
大殿筋は抗重力位である側臥位での訓練を選択(患者さんによって肢位の検討は必要)
次いで臥位での胸椎・胸郭の可動域は改善してきたため、立位の前段階である座位で多裂筋、最長筋を短縮させるようにしながら、体幹を前傾してもらいます。
この事により重力に抗していく為の筋活動を促すことができます。
洗面動作時に胸腰椎の後弯が強まることによって腰背部に負担が増加していたと仮説を立てました。
その為多裂筋、最長筋が活動することによって胸腰椎を前弯へと修正することができます。
座位の状態で体幹を前傾させることができたら、無理のない範囲で抵抗を肩甲骨後面からかけていきます。
この抵抗に抗していくことによって重力以上に筋活動を促すことができます。
多裂筋・最長筋・多裂筋の求心性収縮を促すことによって体幹前傾時の胸腰椎の前弯を作りつつ、大殿筋の働きにより腰部の負担を軽減させていくことが出来ると考えます。
座位で姿勢を起こして胸椎・腰椎前弯に誘導して体幹前傾訓練を行う(過前弯に注意)
腸肋筋ではなく多裂筋・最長筋にも活動してもらい特定の筋への負担を減らす
問題点に対して治療する(立位)
座位での治療で疼痛がないことを確認したため、立位での治療を実施していきます。
座位と立位を比較し相違点として支持基底面の差が挙げられます。
特に体幹を前傾する際には少ない支持基底面の中で更に前足部に重心移動を行わなければなりません。
体幹を前傾する際に過度に踵に重心移動してしまうと腰部の負担が増加します。
そのため前足部に力を入れてもらう感覚を感じてもらうために壁に立位でもたれてもらい、お尻背中を壁につけたり、離したりしてもらいました。
この事により漠然と前足部、踵に重心移動を提案するよりも、目標物に身体を近づける方が余計な動作が含まれにくくなります。
そこで前足部に力が入る感覚を養えたため、前足部に重心を乗せながら体幹前傾し、洗顔を行なってもらったところ疼痛が生じませんでした。
この方法を理解してもらうために前足部に重心を乗せながら洗顔動作をすることを提案し、生活してもらうこととしました。
1週間後訪問し疼痛が改善したことを確認しました。
前かがみになるときはつま先で踏ん張る感じが分かってもらえると、良い結果につながることが多い。
でも人によってバランスのとりかたは個人差があるから確認してみてな。
まとめ
今回は洗顔動作を行う際に体幹を前傾した際の腰痛に対しての評価・治療法を解説しました。
治療の手順は以下の通りとなります。
今回は胸腰椎の前弯と胸郭の拡張を改善し、大殿筋が働きやすいように治療しました。
更につま先に体重移動をしながら体幹を前傾できるようになることで腰痛が改善しました。
腰痛の原因は千差万別ではありますが、日常の姿勢・動作の方法から疼痛が生じていることもあります。
腰痛が生じてしまうと体動の機会が少なくなり、体力・筋力の低下が生じてしまうこともあります。
それは本人の生活満足度を下げてしまう原因になりかねません。
もしくはその状況が進行し寝たきりになってしまえば、在宅で生活することも難しくなってしまう方もいるかもしれません。
筆者もリハビリテーションに携わる者として、腰痛がある患者さんには十分に注意していきたいと感じています。
オススメ書籍
今回腰痛を考えるうえで非常に参考になる著書でしたので、ご紹介したいと思います。
引用文献でも今回記事に載せさせて頂きましたが、カラーで非常に見やすく腰痛の症状によって細かく評価・治療法を解説して頂いています。
今回は大殿筋がどのように腰痛に関与しているのかがテーマになりましたが、この他にも沢山の臨床へのヒントが詰まっています。
もし読んだことがない方がおられれば、手にとって頂く事を強くオススメ致します。
外来リハビリ・訪問リハビリなど限られた時間でしか、治療する機会が得られないセラピストの皆様にもオススメです!
最後に
この記事を参考にされる際は、目の前の患者さんに紹介した評価・治療が適応できるか判断していただいた上で使用して頂ければ幸いです。
患者さん一人一人、疾患、既往歴、身体的特徴等異なります。
そのため、今回ご紹介した治療は万人に対して、再現性を担保できるものではありません。
それらを踏まえた上で参考にして頂ければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
以上、ユウセイでした。
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