
正座をしようとすると、太ももの前がピリッと痛むんです

正座ですか、、正直むずかしいかもしれませんね

確かに難しいでな
でも知識があれば、患者さんの助けになれるかも!

ほんとですか!
正座は、膝関節の可動域を大きく使うため、難易度の高い動作のひとつです。
しかし、日常生活の中で正座を求められる場面は意外と多く、できないことで困る方も少なくありません。
正座動作に関する知識や技術を身につけておくことは、臨床の場でも評価やアプローチに大いに役立ちます。
今回は、正座をしようとした際に膝に疼痛が出るケースに対して、理学療法士の視点からその原因と対応方法を解説します。
正座できない原因を評価する|膝関節の可動域と筋機能に注目
正座を妨げる要因に対するリハビリアプローチ
正座しやすい姿勢と訓練環境を整える
正座できない原因を評価する|膝関節の可動域と筋機能に注目

ハナさんの症状
正座の途中で、大腿前面に疼痛が生じる
触診・可動域の確認

最後まで曲げると、太ももの前が痛いね
膝屈曲可動域を測定すると140°と制限が生じ、深屈曲位をとることができません。
また下腿の外旋も確認されています。
続いて触診を行い、大腿二頭筋・半腱様筋に圧痛があります。
循環不良・攣縮により、適切に筋肉が収縮出来ていない可能性が示唆されます。


大腿直筋の短縮でしょうか
踵もお尻につかないし、ストレッチですかね?

短縮と判断する前に整形テストを行おう!
筋短縮なのか、関節の動きが阻害されての制限なのか、精査しよう

なるほど!
膝関節の屈曲制限により正座が困難になっています。
しかし制限の原因が筋短縮なのか、関節の動きが阻害されたからなのかを見極める必要があります。
トーマステストの肢位で左膝を抱え込んでもらい、右膝から足部までをベッドから下垂させます。
その際に右膝が伸展する反応が無いか調べました。
結果陰性であった為、大腿直筋短縮の可能性が低いと判断しました。
膝屈曲時、下腿外旋する
膝関節140°付近で大腿前面に疼痛
大腿二頭筋・半膜様筋に圧痛
大腿直筋の筋短縮の可能性は低い
下腿の動きを確認する

ここでポイント!
下腿は膝が屈曲するとどうなる?

え、まっすぐ屈曲していくんじゃないですか?

基本的には内旋していく
特に屈曲角度が増すと傾向は強まるよ
宇都宮らは屈曲初期のみならず、90°を超えて角度が増すにつれ、脛骨が内旋する¹⁾と述べています。
上記の知見から膝関節が屈曲する際に、下腿は内旋します。

どの程度内旋するかに関して、個人差がありますが知っておくと有用です。
膝屈曲する際に徐々に下腿内旋を増やすと、抵抗感・疼痛が軽減する事があります。
その場合は筋短縮が原因ではなく、関節の運動軌跡に問題があり疼痛が出現したという事です。
下腿を内旋する際には優しく微弱な力で誘導していきましょう。
強く触れると組織が緊張して動かしづらくなりますし、治療者の手に力が入ると、下腿が動いているか分かりにくくなってしまいます。

内旋角度は個人差がある
左右差を確認して、健側がどの程度、内旋するか確認しよう
膝を屈曲する際に下腿は大腿に対して内旋する
誘導する時はリラックスして触る
左右差を確認して、どの程度健側が内旋しているか確認
引用文献
1)宇都宮初夫.SJF関節ファシリテーション.第2版,丸善出版株式会社,2017,124.
正座を妨げる要因に対するリハビリアプローチ

ハナさんは膝屈曲時に下腿が外旋しています。
またハムストリングスの緊張が高く、圧痛も確認されていたため、前・後方移動も確認しました。
その結果ハムストリングスの影響で脛骨の前方移動が制限されやすい状況でした。
その為、他動で膝関節を屈曲方向へ動かしていく際に、下腿を徐々に内旋方向に誘導していきました。
普段から下腿が外旋しているため、最初から強い誘導はせず、可動していく中で内旋に誘導します。
その治療中に膝関節屈曲への抵抗感が増加したり、下腿が外旋してしまう場合がありました。
原因として先の評価でハムストリングスの過緊張による下腿の後方偏位・下腿内旋の不足が考えられました。
そこで膝を屈曲していき、上記の問題が生じる直前で優しく脛骨・腓骨と順に把持し前後・内旋にモビライゼーションをしました。
状況によってはハムストリングスの筋腹を直接指圧し、モビライゼーションを行うことで緊張を緩めました。

脛骨の裏には膝窩動脈・脛骨神経が、腓骨の周囲には浅腓骨神経がありますので、モビライゼーションを行う時は優しく触る事を心がけました。
また新たに不快な症状が出ていないか確認しました。
モビライゼーション後は一度膝を伸展し、また屈曲を繰り返します。
拘縮原因の軟部組織・筋は、伸張・弛緩を繰り返す事で柔軟性を取り戻します。
ここで伸展せず屈曲し続けると、膝の疼痛が生じる場合がありますので注意です。
下腿内旋させながら膝を屈曲する
下腿内旋・前・後方移動の確認を行う
屈曲制限に対し、モビライゼーションを行う
可動域訓練を行う時の注意点

膝を伸展せず屈曲し続けると膝の疼痛が生じる場合があると説明しました。
しかし屈曲方向へ動かした後に膝伸展をセットにしていても、膝の周囲に疼痛が出る場合があります。
その場合、適切な膝関節の運動軌跡に沿って、運動できていない可能性があります。
そのため屈曲制限を感じたら、それ以上は無理して屈曲させてはいけません。
屈曲制限の直前でモビライゼーションを行い、可動域を拡大します。
モビライゼーション後に可動域が改善しているか、関節の動きが軽くなっているか確認しましょう。
そして一番重要なのが可動域を拡大した後は必ず自動介助・自動運動に切り替えて、拡大した可動域まで可動させます。
この自動運動をせず、他動で訓練を終えてしまうと新たな可動域に膝周囲の筋肉が対応できず、疼痛を生じさせてしまうことがあります。
可動域を改善したらその最終域まで動かす事は必須ですので忘れないようにしましょう。
ハナさんは下腿内旋に誘導し、膝を屈曲していくと徐々に可動域の改善を図れました。
他動で膝屈曲可動域を改善する
改善後膝屈曲を自動介助・自動運動で行う
正座しやすい姿勢と訓練環境を整える

ハナさん評価 (1ヶ月後)
膝関節屈曲可動域
140°※下腿外旋傾向、最終域で抵抗感があり、大腿前面に疼痛あり
→165°※下腿の外旋軽減、最終域の抵抗感軽減、疼痛改善
触診
大腿二頭筋、半膜様筋に圧痛あり
→大腿二頭筋、半膜様筋の圧痛消失
治療が進み、仰臥位では膝を屈曲し、踵が殿部についても疼痛が出現しなくなりました。
しかし正座をすると、膝前面に疼痛が生じました。

寝ている時に、膝を曲げられても痛くないね
でも正座をすると、やっぱり痛いわね

体重が乗っていくから、仰臥位と状況が違うね
原因を突き詰めていこう!
仰臥位での膝深屈曲は疼痛が生じない
正座動作になると疼痛が出現する
骨盤後傾していないか確認する
ハナさんの正座動作

仰臥位では疼痛が出ていないのに、実際の動作でなぜ疼痛が出てくるのか確認します。
正座動作を確認すると、骨盤後傾したまま正座をしていました。
ここで仮説として大腿直筋の起始停止がポイントになると考えます。
大腿直筋の起始・停止は下前腸骨棘から膝蓋腱です。
骨盤後傾すると、大腿直筋の起始・停止が離れ伸張されます。
更に体重も乗るため、遠心性収縮にてコントロールしなくてはなりません。
その為、過度な負担が大腿直筋にかかり、大腿前面に疼痛が出現したと考えられます。

大腿直筋が原因の場合、膝の皿の下が痛いって言われる事も多いよ
正座の際に骨盤後傾する
大腿直筋への過負荷により、疼痛が生じる
骨盤の可動訓練を行う
仰臥位では膝が深屈曲できるようになっていたため、骨盤後傾しながら正座をする事が、疼痛の原因であると考えました。
その為、骨盤の前・後傾訓練を立膝で行います。
座位・四つ這いで行うのも良いです。
しかし最終的には、疼痛が生じる動作に近い姿勢で訓練をしていきます。
支持物を使用しながら、動きを覚えてもらいます。

おへそをテーブルに近づけながら正座をする事で、骨盤前傾に誘導する事が出来ます。
骨盤後傾する際はおへそを引き上げてと伝えると、理解してもらいやすくなります。
今回は骨盤前傾し、大腿直筋にゆとりをもたせる事が重要です。
最初は分厚い座布団や、クッションを膝の間に挟みます。
疼痛がなければ、徐々に膝に挟むものを減らします。
ハナさんにもおへそをテーブルに近づけながら、正座をするように伝えます。

この動作では疼痛が生じず、正座ができました。

ピリッとしなくなったし、お正月に正座で過ごせたわ!
目的とする動作に近い姿勢で訓練を行う
骨盤前傾させ大腿直筋の過負荷を緩和
テーブル・座布団で負担を考慮
まとめ

今回は正座の際に生じる疼痛への対応を解説しました。
治療の手順としては以下の通りです。
正座できない原因を評価する|膝関節の可動域と筋機能に注目
正座を妨げる要因に対するリハビリアプローチ
正座しやすい姿勢と訓練環境を整える
膝を屈曲する際に、下腿が外旋していないか確認しましょう。
下腿内旋を誘導して膝屈曲していく場合は少しずつ、優しく誘導します。
下腿が動いている感覚を身につけるのは、一朝一夕ではありませんが、感じられると治療するうえでとても役立ちます。
今回はハムストリングスの過緊張による脛骨の後方偏位、下腿の内旋制限に対してモビライゼーションが必要でした。
モビライゼーションは周囲の組織に負担をかけないように、優しく動かしていきましょう。
相手の自覚症状に変化がないか確認することも重要です。
膝の可動域は十分なはずなのに疼痛が出る場合は、骨盤後傾しながら正座していないか確認してみてください。
正座をする際には、最初は座布団やクッションを挟むと負担が少なくお勧めです。
おすすめ書籍
今回は関節には、それぞれ特有の運動軌跡があることをお伝えしました。
この軌跡から外れることで、可動域の制限や疼痛につながることもあります。
そのため、各関節の運動軌跡を知っておくことは、治療の幅を広げ、無理のないアプローチを行ううえで有用だと考えます。
以下でご紹介する書籍では、関節の角度によってどのように動くかを丁寧に解説されており、関節可動域の改善を考えるうえでも参考になる知見が多く掲載されています。
筆者自身も臨床に取り入れる中で、関節の動きを理解する重要性を再確認する機会となりました。
関節の疼痛や拘縮への対応に悩んでいる方、あるいは今一度運動学を整理したいと感じている方にとって、学びの多い一冊だと感じています。
▼書籍リンクはこちら
※本記事で紹介した書籍は、筆者の個人的な感想・経験に基づくものであり、すべての方に同様の理解や効果を保証するものではありません。
膝の屈曲制限や筋緊張によって、正座だけでなく歩行や日常動作にも支障が出ることがあります。
以下の記事も参考にしてみてください。
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最後に
この記事を参考にされる際は、目の前の患者さんに、紹介した評価・治療が適応できるか、判断して頂いたうえで、使用して頂ければ幸いです。
患者さん一人一人、疾患、既往歴、身体的特徴等異なります。
そのため、今回ご紹介した治療は、万人に対して、再現性を担保できるものではありません。
それらを踏まえた上で、参考にして頂ければ幸いです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
以上、ユウセイでした。

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